フェイルセーフ(fail-safe)とは、システムが異常や故障に直面したとき、“安全な状態”へ自動的に移行させる設計の考え方です。もともと、航空・鉄道・機械などの分野で採用されてきましたが、東日本大震災や熊本地震のような大規模地震を経験したことで、建築分野でもその重要性が強く認識されるようになりました。
大規模地震では、火災が同時に発生する複合災害のリスクが高まります。その際、起こり得るのが、建物が地震で変形し、防火戸が正常に閉鎖しない事態です。防火戸が機能しないと、火災が広範囲に及び、避難経路の確保ができません。いつ起こるかわからない大規模地震に備え、「防火設備の確実性」について考えていきます。
防火戸が閉まらなくなる原因は、単なる揺れではなく、建物の構造変形によって扉の動線が狂うことにあります。つまり、防火戸自体が壊れるのではなく、周囲の構造が変形することで防火戸が本来の軌道を失うのです。
■防火戸が閉まらなくなる要因
・枠と扉の位置関係がずれる
・扉上部・下部のクリアランスが消失する
・レールやガイドが変形し、扉が引っかかる
・電磁レリーズが変位に追従できず作動しない
■「層間変位」と「残留層間変位」震時には、柱・梁・床がそれぞれ異なる方向に動き、階と階の間に「層間変位」が生じます。揺れが収まれば元の位置に戻る場合もありますが、大規模地震では、変形がそのまま残る「残留層間変位」が発生しやすくなります。「残留層間変位」により、開口部の歪みやレールのねじれが固定化されると、防火戸は本来の軌道を失ったままになり、地震後の火災時に閉鎖不能を引き起こす決定的な要因となります。
防火設備は従来、静的な耐火性能を中心に評価されてきました。しかし、地震時に問題となるのは、「静的試験」では再現されない“動的変形”です。
「静的試験」では、扉・枠・周辺部材は理想的な状態で設置されます。一方、実際の地震では、枠が台形状に歪んだり、上下階のずれによって段差が生じたり、扉の走行ラインそのものがねじれたりと、複数の変形が同時に発生します。このギャップが、耐火性能は満たしているにもかかわらず、地震後に閉まらない危険な防火戸を生んでしまいます。
閉まらない防火戸の課題が、2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震など、相次ぐ大規模地震で明らかになりました。これを機に文化シヤッターは、「層間変位」を前提に、大地震でも確実に閉鎖できる防火戸の研究開発を重ねました。 さらに、「残留層間変位」を再現できる独自の実験装置を考案し、実際の変形条件を忠実に再現した検証を行うことで、地震後の変形した建物内でも確実に閉鎖できる防火戸を開発しました。
それが、2017年9月に発売された、大変形追従随時閉鎖型防火戸「アスコード」です。建物の変形に追従しながら確実に閉じるというフェイルセーフ設計を紹介します。
大変形追従随時閉鎖型防火戸「アスコード」
■文化シヤッターの大変形追従随時閉鎖型防火戸「アスコード」の技術紹介
大規模震災直後に火災が発生した際、建物の歪みによって防火戸の枠が変形しても、扉が上枠や床と干渉することなく閉鎖することで防火性能を保持します。
【確実に閉まる3つの理由】
①「ヒンジの軸伸ばし」と「扉上部のクリアランス拡大」による扉干渉防止
ヒンジの軸を伸ばし、扉上部のクリアランスを広げることで、建物の変形により枠が歪んでも、扉と枠の干渉を防いで閉鎖に必要な軌道を確保します。
②電磁レリーズの「上下変位吸収機構」
レリーズが建物の変形に合わせて変位することで、位置ずれが生じても確実に作動し、扉の閉鎖を妨げません。
③扉下部の「変位吸収機構」
扉下部に取り付けた巾木が建物の変形に合わせて上下に変位することで、床との干渉を防ぎ、閉鎖に必要な軌道を確保します。また、戸先下部には戸車を内蔵し、床との干渉によって扉が動かなくなるのを防ぎます。
以上3つの理由により、「アスコード」は、建物の層間変形角が90分の1(瞬間最大60分の1)以内であれば、確実に扉が閉鎖し、大規模震災時でも防火戸(特定防火設備)としての機能を発揮します。
●対震性能はJIS等級最高の「D-3」をクリア
対震性能とは、地震による建物の変形に対して、扉の機能を維持する性能です。建物が変形しても扉を動かせる性能を示す「面内変形追随性」については、JIS等級で最高の「D-3」をクリアしています。
●新設・既設に設置可能
「アスコード」は、新設対応はもとより、既設現場についても改修工事により設置できます。
防火設備は、建物の安全性を支える最後の砦です。その確実性を高めるためには、平常時の作動確認だけでなく、地震後の変形した環境でも作動することを前提にした検証が不可欠です。
大規模地震と火災が同時発生する複合災害に備えるためにも、地震後の変形環境を前提とした防火設備の信頼性を再点検してみましょう。早い段階でフェイルセーフ設計を取り入れることは、建築の安全性を未来へつなぐ重要な取り組みになります。
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